「国破れて山河在り」の五言律詩で有名な唐の詩人・杜甫は、戦乱を避け四川省成都に暮らした時期、多くの詩を作った。ゆかりの建物「杜甫草堂」は成都有数の観光地となっている。
入り口の前書きには「杜甫は自分の苦難と人民の苦しみを国家の安否と結び付け、高尚な心情から創作した」とある。確かに、生活に困窮しながら腐敗した社会を憂いた詩が多いが・・・。
知人に聞くと、社会主義中国が誕生して間もなく、杜甫の詩は教科書に多く掲載された。清貧に生きた杜甫は「人民の模範」であり、評価も政府のキャンペーン色が強くなるという。
その杜甫草堂は、多くの観光客でにぎわい、茶髪の若者が杜甫の銅像に腕を回し、自撮り棒で写真を撮っている。経済成長著しい中国を象徴している。
「詩聖」と称される杜甫と同時代には「詩仙」李白もいた。杜甫とは対照的に自由奔放でロマンチックな詩を書き、宮廷詩人から失脚し、虚無感の漂う作品も残した。豊かな生活を享受する一方、激しい受験・出世競争で孤独感も味わっている今の中国人は、杜甫と李白のどちらの心情に近いのだろうか、ふと考えた。 (平岩勇司)