「記者なら、こういう敏感な内容の本は大陸に持ち込めないのを知っているだろう」
北京の空港で、税関の職員が中国関連の本を手に、厳しい視線を浴びせてくる。視線をそらすしかない。北京赴任にあたって日本から持ち込んだ本のうち8冊を没収された。
どの本を没収するかは漢字を拾い読みして判断したようだ。中国の作家、余華(よか)氏の作品は「この作家はダメだ」と即決。中国共産党の内幕を描いたものなど確かに「敏感な」内容の本もあったが、それほど問題とは思えない本も没収された。
交渉の末に没収を免れた本もある。ネット規制に関する本は「ネットに関する技術的な内容だ」との説明でスーツケースに戻された。
税関職員がスーツケースの中までチェックするのは、ごく一部にすぎない。会社の先輩からは「相当運が悪くなければ持ち込める」と聞いていた。相当運が悪かったらしい。
「次にこういうことがあったら仕事に影響しますよ」
警告を受けるとともに、ようやく空港を出た。私が北京で初めて名刺を渡したのは、この税関職員の李さんとなった。 (中沢穣)