中国人が一斉に帰省する春節の期間、北京市内は人影が消えた。タクシーも減るが、空車が多くて拾いやすい。
「○○へ行って」
私の中国語を聞き、タクシーの運転手が「あんたは外国人?」と尋ねてきた。「日本人だよ」と答えると、「だったら『北国之春(ベイグオジーチュン)』は知ってるだろ?」。そう言うや突然、
「♪亭亭白樺 悠悠碧空 微微南来風~」(白樺 青空 南風)と大声で歌いだした。
千昌夫さんの「北国の春」は1980年代、谷村新司さんの「昴(すばる)」とともに中国でカバー曲が大ヒットし、今でも有名な曲だ。運転手のオジサンが楽しげに歌うので、私も日本語でデュエットした。
聞けば、彼も出稼ぎ労働者。春節は「残念だが、戻らない」という。詮索はしなかったが、稼ぎが足りない、切符が手に入らないなどで、帰省できない出稼ぎ者も多い。中国の庶民は何より家族を大切にするだけに、つらさもひとしおだろう。
「♪故郷 我的故郷 何時能回●懐中」(あの故郷(ふるさと)へ帰ろかな 帰ろかな)。最後の一節で、オジサンの声がひときわ大きくなった。 (平岩勇司)